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2026.07.03
バリュエーション
【連載第4回】第3回「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」のポイントと実務への影響
当ブログでは、現在、国税庁で進められている「取引相場のない株式の評価」に関する見直しの議論について連載でお伝えしています。 今回は、2026年6月4日に開催された「第3回有識者会議」の内容について解説します 。 第3回有識者会議では、日本商工会議所の阿部貴明特別顧問・税制委員長(丸源飲料工業株式会社代表取締役社長)・玉越賢治税制専門委員会学識委員(税理士法人ゆいアドバイザーズ代表社員)、日本税理士会連合会の調査研究部、そして昭和女子大学グローバルビジネス学部特命教授・神戸大学名誉教授の櫻井久勝委員から、それぞれの立場に基づく意見等が提出されました。今後の取引相場のない株式(自社株式)の評価の実務や事業承継に直結する重要な議論が行われています。
Ⅰ. 株式評価の対象となる当事会社の視点:中小企業の悲痛な声と実態
日本商工会議所は、地域経済ならびに地域のコミュニティを支える中小企業の声を反映して、現在の取引相場のない株式の評価が事業承継に与える悪影響について主に次のように訴えました。
⚫︎企業成長が重い税負担に直結するジレンマ
雇用を守り、積極的な投資により会社を成長させた結果、自社株式の評価額が高騰し、事業承継時に非常に重い税負担が課せられている。現在の取引相場のない株式の評価方法は、企業が成長すればするほど評価額が高くなるため、中小企業と我が国の成長を阻害している。
⚫︎「解散価値」での評価や実質的な担税力に反した課税への違和感
事業を継続する前提の承継であるにもかかわらず、純資産価額方式のように「解散価値」で評価される点、さらに、換金性が実質的にない株式に対して重い税負担が課されており、担税力に応じた負担の公平性に反している点、大きな違和感がある。
⚫︎換価コストの未反映
実際に非上場会社を清算する場合、時間コストの他、専門家費用、資産売却損、退職金の支払い、みなし配当課税など多額のコストが発生し、手取りの残余財産は時価純資産額をベースとした相続税評価額よりも大幅に小さくなる。
⚫︎会計検査院報告については純資産価額方式の評価を下げる方向で対応するべきという提言
純資産価額方式は割高であり、在庫等の換価コストを加味した評価減や退職給付引当金・賞与引当金等の計上等を認める等の措置により評価額の引き下げを行うべきである。なお、税務執行の観点から、類似業種比準方式の客観性や便宜性は不可欠であり、将来の収益性や資本コスト等を評価額の算定に用いることは適切でない。
⚫︎株式評価と税負担の一体的議論の要望
仮に取引相場のない株式の評価額の上昇をもたらすような見直しが行われれば、後継者への負担増と混乱を招くため、「事業承継税制の特例措置」の拡充や恒久化を図ると共に、猶予・免除のあり方や評価減も含めて「事業承継税制の特例措置」の見直しを行う必要があり、取引相場のない株式の評価方法のみを一方的に議論するべきではない。
Ⅱ. 税務実務の視点:実務現場での課題と矛盾
日本税理士会連合会(日税連)からは、令和7年6月25日に日税連理事会が決定した「令和8年度税制改正に関する建議書」を紹介しながら、日々の実務において直面している評価制度の問題点と見直しの方向性が提示されました 。
⚫︎実務上困っている主な問題点
評価の逆転現象
類似業種比準価額と純資産価額の評価に大幅な乖離があり、取引相場のない株式の評価上の区分の大会社よりも、中会社の評価額の方が高くなってしまう(逆転する)ケースがあり、納税者の理解を得にくい。また類似業種比準価額と純資産価額の評価乖離は節税スキームを誘発し、財産評価基本通達の総則6項の適用をめぐって税務訴訟が激化している。
過度な作業負担
中会社・小会社における純資産価額の算定は、土地や建物の評価、資料収集など膨大な手間とコストが発生する。また類似業種比準価額の算定では、類似業種の判定が困難で、判定誤りによる重大な税務リスクが内包されている。
類似業種比準価額の問題点
固定資産売却損や役員退職慰労金等の非経常的な損失の計上による恣意的な株価操作の余地と資本構造・企業体質が異なる株式市場の公開企業との前提の不一致の2点が問題視されています。
「特定の評価会社」への該当による予測不能な株価高騰
赤字が続いたり、一時的に資産構成が変動しただけで「特定の評価会社」に該当し、突如として株価が大幅に上昇してしまう。
今後、議論となることが想定されること
- 類似業種比準方式の死角:グループ法人税制を活用することにより、親会社の評価を不当に引き下げるスキーム。
- 持株会と無配当会社における制度と実態の乖離:持株会の取得価格と税務評価額の2重構造と無配当会社における配当還元価額の最低額の不合理性。
日税連が提案する見直しの方向性
- 継続企業を前提とした評価:収益性を重視した「収益還元的」な評価方式への移行を検討する。
- 減額要素の考慮等:時価純資産ではなく税務上の簿価純資産価額の採用を検討すると共に、確実な退職給付債務・資産除去債務などを減価要素とする。
- 事業承継税制との一体的改革:基礎となる「評価」が正しく機能しなければ中小企業を守ることはできず、非上場株式の評価見直しと新たな事業承継税制の創設を一体不可分で議論する。
- 発行会社への譲渡に係る特例制度の創設:相続税納税のために発行会社へ非上場株式を譲渡した場合の所得税非課税措置等を創設すべきである。
Ⅲ. 会計学の視点:会計学から見た企業価値評価
櫻井久勝委員からは、会計学のインカム・アプローチに基づく企業価値評価の研究状況が報告されました。
- 3つのモデルの比較:「配当割引モデル」「割引キャッシュフローモデル」「残余利益モデル」の3つを比較検討。
- 残余利益モデルの優位性:これらのうち、発生主義会計による利益ベースであるため予測が比較的容易であり、ターミナル価値(永続価値)への依存度が低いことなどから、「残余利益モデル」が定性的に最も優れていると判断。
朝日ビジネスソリューション㈱(朝日税理士法人)の見解と今後の対策
今回の第3回有識者会議では、商工会議所と日税連の双方から「純資産価額(解散価値)による評価の限界」と「事業承継税制と一体となった抜本的な見直しの必要性」が強く訴えられました。
現行の財産評価基本通達における「類似業種比準方式」や「純資産価額方式」が今後どのように見直されるのか、あるいは新たな評価モデルが導入されるのか、今、中小企業の事業存続にとって極めて重要な局面を迎えていると考えられます。 弊社では、有識者会議の動向を継続して注視し、経営者の皆様の円滑な事業承継に向けた最新かつ最適な情報提供とサポートを行っていきます。自社株式の評価や事業承継についてご不安な点がございましたら、いつでもお気軽に朝日ビジネスソリューション㈱(朝日税理士法人)までご相談ください。
次回に続く(Coming Soon)